『穴熊社長の蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)2019年6月号』

『令和(れいわ)』。新しい年号が発表されて間もなく、新紙幣の発行のニュースがありました。時代も変わるし、一つの時代のシンボルとして、第一印象は好感を持つ話題。けれど、発行の理由を聞けば、「偽造防止の為、約20年周期で刷新する必要がある」との事です。しかも、発行は5年先。新紙幣の発行は、大きな経済の波及効果もありますが、政府としては、経済政策として実施するのでないと否定的。発行が5年後となれば、そうなんでしょうけど。 
一方で、声高に、東京五輪をきっかけに、世界の潮流から「キャッシュレス化(現金を使わない決済)を推進」の方針で、政策を講じている。中国などで、キャッシュレス化が進んでいる理由のひとつには、ニセ札紙幣が横行しているため、紙幣を使うより電子マネーを使った方が、信用経済の点からも安全だからと言われています。日本の紙幣の偽造防止技術は、世界的に高く評価されているには周知の事であり、何となくチグハグ感もあり、憶測も交錯しますね。
平成の日本は、「戦争のない時代」である反面、「自然災害」に見舞われたという振り返りがあります。この20年の経済は、国内総生産(GDP)と国民の平均所得(国税庁調べ)は、ずっと横ばいです。平成の間に、米国や独国では、GDPは2倍となっています。そういった意味では、平成生まれは、生まれた時から、ずっと不景気とも言えます。元号が変われば、世の中が変わるという単純なものではありませんが、大きな希望をもってスタートしたいところです。
新紙幣に印刷される予定の肖像画の3人については、知名度が低いというのが一般的な声。新しい「令和」の時代に、「日本の資本主義の父」とされる「渋沢栄一」氏が、「貨幣の顔」に選ばれたのは、個人的には、この人以外にないとすら思います。明治維新以降、日本の近代化の礎を築くにあたり、500社を超す会社の設立に携わりました。今でも、300社がその系譜を踏んで存在します。みずほ銀行、東京海上保険、東京ガス、東京証券取引所、王子製紙、帝国ホテル…といった今も続く上場企業だけでなく、理化学研究所、一橋大学といった教育・研究機関の創立にも尽力した日本人です。
日本を代表する自動車会社の、フランス人の社長が逮捕されました。平成の時代に、破綻が懸念された会社をV字回復させ成長路線へと導いた功労者でした。しかし、会社を私物化し、汚名を献上しているのは、ご案内の通りです。渋沢栄一の名前の認知度が低いのは、500もの会社を創業しながら、一つの会社も「自分の物にしなかった」というのが、理由だと私は思います。永遠に社会の役に立ち、かつ、経済的にも存続する会社を残す。自分の地位や名声、利益にとらわれない、「論語と算盤」を尊重した事業家。まさに、令和の時代の紙幣の顔にふさわしい人物と私は思います。令和の時代も、お元気様です。(19・4・21)