『穴熊社長の、蛙鳴蝉噪(あめいせんそう) 2月号』

「会社は成長しなければならないか」と聞かれれば、「はい」と答えます。「それは何故か」と問われれば、
「社員さんのためです」と答えます。若い社員さんが結婚をし、こどもも生まれ、大きくなっていく。
それに見合ったマイカーやマイホームも必要になったり教育費も嵩みます。となると、給料は上がっていく必要があります。
それを保障していくためには、会社は成長していかなければならないというのがひとつの理由です。
 翻って、果てしなく成長していく必要があるかは、答えに困ります。木曽に暮らすとピンとこないところも
ありますが、大企業の成長戦略における国際競争は、不況や金融危機の真っ只中にある欧米を尻目に、
新興国と言われる国々の成長は著しく、競争の激化は熾烈さを増しているように思えます。
 日本特有の精神や文化から目覚め、明治維新以降、登っていけばいつかはやがて手が届くと思い、近代国家を
目指した私たちの先輩。年末のNHKドラマ「坂の上の雲」では、羸弱(るいじゃく)な基盤国家しか持たない
近代国家としの日本を支える為に、青年たちが国家と自分を同一視し、自らが国家を担う気概を持って生きる、
明治期特有の人間像がありました。更にその後、先の大戦の焼け野原から目覚ましく発展した経済大国を先輩方は
創ってくれました。私達の世代は、そうした物質的な豊かさの恩恵をいただいてきました。
 大陸から引き揚げてきた経験を持つ作家・五木寛之の著書「下山の思想」が、昨年末に出版されました。
登りつめて行き先を失った今、下山することにより新しい価値観を探していくことが必要ではないかとの提言です。
地球環境問題や政治の行き詰まりを実感する昨今。そんな考え方も必要な時代かもしれません。
それは決して、後ろ向きなマイナスな発想ではなく、ゆっくりと丁寧に下山をする中で、
次の時代に向けた幸せを創っていくのが、今を生きる私たち共通の命題ではないかとも感じました。
矛盾したような文面になりましたが、矛盾や葛藤を調和させて生きるのも、人生ですね。
今月も、お元気様です。(12・1・10)

              株式会社  エマ商会  依 馬  邦 夫