『穴熊社長の蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)2020年10月号』

 「やられたらやり返す。倍返しだ」。7年前の流行語大賞にも選ばれたドラマ半沢直樹の名セリフ。今夏、シリーズ第二弾として話題になっていて、私のまわりでも、日曜日の夜を楽しみにしている人もいます。
「目には目を。歯には歯を。」と、世界三大法典のひとつで、紀元前17世紀にバビロニア帝国のハンムラビ法典(他、ローマ法大全、ナポレオン法典)の一説。世界最古の記録された法典として、学生時代の世界史の授業で聞き覚えのある方もおみえでしょう。「法を定め、法の下で、生活をする」ことを定着させるきっかけと歴史上位置付けられる向きもあります。「やられたら、やられた分をやり返して良い」という解釈と「やられた分まではやり返して良いが、それ以上をやり返してはならない」という抑止の意味付けもあるようです。東京・中野区の哲学堂公園にはハンムラビ王の像が設置されており、法律をつくった人物として、聖徳太子の像と共に並んでいるそうです。
聖徳太子といえば、奈良・法隆寺の建立にも所縁があり、推古天皇の下、「17条の憲法」を制定(西暦604年)した人物。これもまた日本人なら学生時代の記憶が甦りますね。現代の憲法とは、趣が異なり、貴族や官僚など、政治に関わる人々に道徳や心がけを説いたものとされます。
その第一条は、「和をもって、尊しと為す」から始まり、ある訳文から引用すると「和を大切にし、人と諍いせぬようにしよう。人にはそれぞれ、付き合いというものもあるが、それ故、とかく君主や父に従わなかったり、身近の人々と仲たがいを起こしたりする。しかし、上司と下僚がにこやかに仲睦まじく論じ合えば、自ずから事は、筋道に適い、どんな事でも成就するであろう」と書かれています。国家や組織をまとめていくには、法や秩序が必要であり、4000年前のバビロニア帝国や1400年前の日本にあっても争いは変わらずあるのが人の常でしょうか。
現代にあって、米国と中国の覇権争いは、まさに、「やられたらやり返す」の報復合戦。益々、エスカレートしていく懸念があります。戦後75年の今年。戦争の記憶も風化が心配されます。ナショナリズムの報復合戦がいつの間にか、戦争が始まっていた。
世の中や会社の中には、理不尽な事、不条理な事も多く、抑圧や鬱憤の蓄積もあります。そんな中、志や矜持を持った、バンカー(銀行員)が、権威や体制に対し正義をもって打ち負かす。昭和の時代劇でいえば、「水戸黄門」、「大岡越前」や「ヒーロー物」の痛快さに通じるところもあるのでしょう。
半沢直樹のような生き方は、ドラマで観ると面白くても、職場にいたらどうかという現実とのギャップも高視聴率の理由のひとつでしょうか。
 今月も、お元気様です。(20・8・27)